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名古屋地方裁判所 昭和36年(タ)3号 判決 1961年10月28日

原告 加藤幸子 外二名

被告 検察官

主文

原告等が本籍三重県四日市市浜田四、〇八九番地加藤清(昭和二十九年一月二十日死亡)の子でないことを確認する。

訴訟費用は国庫の負担とする。

事実

原告等法定代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、「原告加藤幸子は昭和二十五年八月二十三日に、同加藤高行は昭和二十七年三月二十三日に、同加藤鈴夫は昭和二十九年三月八日にいずれも訴外山中嘉子夫、同山中昇子(旧姓加藤)との間に出生したものであるが、原告等は、それぞれ訴外加藤清と同加藤昇子との嫡出子として戸籍に記載されている。しかして、右加藤清は、右昇子と婚姻後間もなく刑務所に収容されて受刑生活を送るに到り、そのため、その後死亡するまで右昇子との夫婦関係が一切断たれていたのである。一方、右昇子は、夫清の服役中に前記山中嘉子夫と知り合つて、夫清とは離婚して右嘉子夫と正式に婚姻するつもりであつたところ、その離婚手続のなされぬまま右嘉子夫と内縁関係を継続しているうちに、原告等をそれぞれ出産したのでいずれも夫清との間の嫡出子として出生届をなしたものである。しかして、その後清が死亡したため、右昇子は、同人との婚姻関係が消滅したので、ここにおいて右山中嘉子夫と婚姻の届出をなした。そこで、原告等は、それぞれ右亡加藤清との親子関係が存在しないことの確認を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、証拠として、甲第一、二号証を提出し、証人山中スズヱ、同山中嘉子夫の証言及び原告法定代理人本人尋問の結果を各援用し、乙号各証の成立をいずれも認めた。

被告は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、「原告の請求原因事実中、原告等がそれぞれ原告等主張の日に出生した事実は認めるもその余の事実は不知である。」と述べ、証拠として、乙第一、二号証を提出し、甲号各証の成立をいずれも認めた。

理由

いずれも方式及び趣旨により真正に成立した公文書と認むべき甲第二号証と乙第一、二号証によれば、訴外加藤清(本籍三重県四日市市浜田四、〇八九番地)が昭和十八年五月五日丹羽昇子と婚姻したこと、原告加藤幸子が昭和二十五年八月二十三日に出生し、原告加藤高行が昭和二十七年三月二十三日に出生し、原告加藤鈴夫が昭和二十九年三月八日に出生し、それぞれ父加藤清母昇子の順次二女、二男、三男として戸籍に記載されていること、右加藤清は、昭和二十一年九月二十七日窃盗罪により名古屋区裁判所において懲役一年執行猶予五年に処せられ、同年十二月二十一日名古屋地方裁判所において強盗罪により懲役五年の言渡をうけて同月二十九日に右刑が確定し、昭和二十三年二月二十六日前記執行猶予の取消決定をうけ、右決定は同年三月二日確定し、昭和二十四年十二月二十四日三重刑務所を仮出獄し、昭和二十七年三月十一日広島地方裁判所福山支部において詐欺罪等により懲役一年の言渡を受け、同月二十六日右刑の言渡が確定したこと、及び同人は昭和二十九年一月二十日死亡したことをそれぞれ認めることができる。しかして、右各認定事実から直ちに原告等が右加藤清と親子関係が存在しないということはできず、かえつて右昇子が原告等を懐胎した当時はいずれも右加藤清は服役していなかつたことが推察される。

しかしながら、原告法定代理人本人尋問の結果及び証人山中スズヱ、同山中嘉子夫の各証言と成立を認むべき公文書である甲第一号証の記載とを併せ考えると、加藤清は昇子と結婚した当時は映画館の映写技師をしていたが、間もなく軍務に服し、終戦と共に復員したものの、適当な職業に就くことができず、徒食するうちに罪を犯して前記認定のとおり服役したこと、一方昇子はその間三吉鉄工株式会社に勤務するうち昭和二四年に至り同じ職場に働く山中嘉子夫と恋愛関係に陥つて同年六月二五日頃名古屋市北区東長田町三丁目三〇番地に一戸を構えて同棲生活に入り、その後清が同年一二月刑務所を出た際昇子は清に一切を告白し、清も亦昇子と嘉子夫との関係を承認し、かくして清と昇子とは事実上の協議離婚をなし、爾来両名間には全然情交関係がなかつたこと、その間昇子が嘉子夫の子である原告等を順次分娩し、昇子と嘉子夫は昭和三五年一一月一〇日正式に婚姻の届出をしたことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。しからば原告等が訴外亡加藤清の子でないことは明かである。

さて原告等が戸籍上の父である清の死亡後、検察官を相手方として親子関係不存在確認の訴を提起し得るや否やについては疑問がない訳ではないが、およそ親子でないものが戸籍上親子として登載されていることは身分上重大な事項であるから、これを是正することは原告等の生涯にとつて決してゆるがせにできない事柄であり、しかも原告等が生存する限り常に現在の法律関係として存在するものであるから、原告等は本訴を提起するにつき確認の利益を有するものといわねばならない。また検察官を被告としたことの適否についても、人事訴訟手続法第二条第三項を類推適用してこれを是認してしかるべきものと思料する。

果してしからば、誤つて亡加藤清の嫡出子として戸籍に登載されている原告等において、右清と親子関係が存在しないことの確認を求める本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき人事訴訟手続法第一七条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小渕連)

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